最近よく「スロットルバイワイヤー」とか「ドライブバイワイヤー」という言葉を耳にすることはありませんか?
今まではアクセルの開閉はワイヤを通じて物理的に燃料噴射装置と接続されていましたが、電気的に接続されることを”~バイワイヤー”(~by wire)と呼ばれています。
今回はそんな耳慣れない言葉である「スロットルバイワイヤー」について解説します。
スロットルバイワイヤー(TBW)とは?
トップ画像にあるバイクは2017年4月に発表されたホンダCBR250RRで、ホンダ初のスロットルバイワイヤ(Throttle By Wire:TBW)を搭載したモデルとして話題になりました。
従来はスロットル(アクセル)を回すと、接続されたスロットルワイヤー(アクセルワイヤー)が引っ張られてキャブレターのバタフライバルブが開き、燃料噴射量をコントロールします。
FI(フューエルインジェクション)車の場合はスロットルワイヤーによって引っ張られた量をセンサで検知してマイコンが外気温やエンジン回転数に応じて燃料噴射量をコントロールします。
燃料噴射方式の違いはあれど、アクセルの開度に応じてスロットルワイヤーを物理的に動かすのは同じです。
で、スロットルバイワイヤーとは、この物理的に動かすワイヤーの替わりに、アクセル開度をセンサ(アクセルポジションセンサ:APS)が検知し、その情報をエンジン制御ユニットに送って燃料噴射量を制御する方式で、「電子制御スロットル」とも呼ばれています。
大きな特徴は、スロットルワイヤーという物理的な可動部品によって直接燃料噴射量を制御するのではなく、電気信号を介してアクセル開度の情報を伝えるところです。
こういった、従来は物理的に伝達していた制御系統を電気信号に置き換えることを、車の世界ではドライブバイワイヤー(DBW)、航空機の世界ではフライバイワイヤー(FBW)と呼ばれています。
電気的に接続されると何がいいの?
スロットルバイワイヤー化のメリットはいくつかありますが、大きくは4つあります。
・省メンテナンス化(潤滑不要)
・配線自由度
それぞれ見ていきましょう。
省配線化
アクセル開度をスロットルケーブルでダイレクトに伝えるのに比べて、電子制御スロットルは電気信号を渡すだけなので単線で済みます。
スロットルケーブルは押し側と引き側の2本必要だったのが単線で済むため、制御系統の省配線化に寄与します。
省メンテナンス化(潤滑不要)
スロットルケーブルって、ケーブル内のオイルが切れるとインナーケーブルがうまく動かないので定期的な潤滑が必要です。
構造的には自転車のブレーキケーブルと同じです。
それが電気配線に置き換えられれば、スロットルケーブルのような潤滑が不要となります。
電気配線は、それ自体は電気信号を渡すだけなので接続さえできていれば、特にメンテナンスする必要がありません。
配線自由度
3つ目は取り回しの自由度が上がることです。
従来のスロットルケーブルもある程度は曲げたりすることはできますが、あまり曲がりがキツいとスロットルが重かったり戻らなくなったりするので、長すぎず短すぎないちょうどいい長さにしなければならないなど、配線には制約があります。
しかしスロットルバイワイヤーになれば細い単線で済むので、配線の曲がりが多少キツくても大丈夫ですし、余長処理も簡単です。
つまり配線の自由度が上がるわけです。
”~バイワイヤー”は航空機が発祥
この考え方は元々は航空機からきています。
従来の航空機は操縦桿やラダーペダルなどの操縦系統は油圧制御で行われており、コックピットから翼/尾翼までは作動油を通すための配管を通さなければなりませんでした。
しかも故障時のことを考えて予備系統も備えているため、そのメンテナンスには多大なコストがかかっていました。
それが電気信号に置き換えられれば油圧系統の配管が不要となり、可動部に直接モーターやアクチュエーターを付ければ操縦席との間は全て電線に置き換えられるので、機体の軽量化やメンテナンス性向上に寄与します。
ワイヤーとケーブルの違いとは?
ところで「スロットルバイワイヤーはわかったけど、今のキャブ車に付いてるアクセルワイヤーも”ワイヤー”だよね?」と思いませんでしたか?
僕は「どっちも”ワイヤー”だから電子制御化していることが名称からわからなくて混乱する!」と思いました。最初は。
これは日本語と英語の違いから来る混乱です。
実は日本語で言う「アクセルワイヤー」「スロットルワイヤー」は、英語ではスロットルケーブル(Throttle Cable)というんですね。
ワイヤーとケーブルの違いは
・ケーブル:複数の素線を撚り合わせたもの
という違いがあります。
確かにスロットルワイヤーは複数の細い先が撚り合ってますよね。
アクセルが電子制御化されると、アクセル開度に応じた電圧を渡せばいいので単線でいいわけです。だから”~by wire”なんですね。
実際、”throttle wire”をgoogle USAサイトで検索すると、出てくるのは”Throttle Cable”です。
スロットルバイワイヤのまとめ
・物理的なスロットルケーブルが不要となり、電気配線だけで済む(省配線化)
自動車では一般的なドライブバイワイヤーがなぜ今頃になって二輪に適用されてきたかというと、従来の技術では二輪車のアクセルフィーリングを再現するのが難しかったからなんです。
車のアクセルは足裏で操作するのに対して、バイクのスロットルは手のひらで操作します。
バイクのスロットルを回してみるとわかりますが、普段使うスロットル範囲ってそんなに大きくありません。
頻繁に全開にする人だとスロットルを握り直さないといけないので、スロットル開度が小さくでもワイヤの巻取り量が大きくなる”ハイスロットル”キットという社外部品に交換する人もいます。
この小さいスロットル操作を素早く正確に検知するには、高分解能かつ高速なアクセルポジションセンサ(APS)が必要で、これまでの技術では従来のスロットルワイヤーによる制御と同等のスロットルフィーリングを出せなかったんですね。
それが近年の電子デバイスの高速化&小型化によって二輪車への適用も可能となったのです。
これから二輪車は全車種がFI化(電子燃料制御化)されますから、スロットルの電子化、スロットルバイワイヤの採用も増えていくでしょう。
コメント
・ワイヤー:複数の素線を撚り合わせたもの
・ケーブル:素線のこと。単線
これ逆です。単純ミスでしょうけど
おっしゃる通り説明が逆ですね。失礼しました。
ご指摘ありがとうございました。