EUでは2035年までに化石燃料車を全廃してEV(電気自動車)にする、と宣言していましたが、さすがにあと10年で全てEVにするのは無理だと判断したのか、全廃についてはトーンダウンしました。
テスラは中国メーカーの追い上げもあって売上が前年同期比9%ダウンで株価が急落中ですし、その中国もEV販売が頭打ちなのと、買い替えコストが嵩み、廃棄されたEV車が荒野に放置されて、さながら「EVの墓場」が拡がっています。
ゼロエミッション(Co2排出ゼロ)で急速に普及すると思われていたEVが、なぜこんなにも急ブレーキがかかってしまったのでしょうか?
今回はEVは本当にエコなのか、今一度立ち返って考えてみたいと思います。
EVは本当にエコなのか?
そもそも「EV車はエコ」なのでしょうか?
発電の仕組みを考えてみれば、EVが100%ゼロエミッションではないことは明白です。
電気を作るのにCO2出しまくり
EV車自体はバッテリーでモーターを駆動するので、走行時にはCO2やNOxなどの物質を排出しません。
この点では確かに「ゼロエミッション」なのですが、バッテリーに充電する電気を作るのに多くのCO2を排出しています。
日本の発電量の比率は、
・太陽光発電 :9.2%
・水力発電 :7.6%
・原子力発電 :5.6%
・バイオマス発電:3.7%
・風力発電 :0.9%
・地熱発電 :0.3%
と、火力発電が圧倒的に多いんですね。
東日本大震災前は、原発による発電比率は25~30%近くありましたが、福島第1原発事故以来、安全基準をクリアした原発を稼働しても6%に満たないのが現状です。
EV化の目的がCO2排出削減であれば、自然エネルギーの安定供給が見込めない現在、原発による発電量を増やすしかありませんが、国民の原子力発電に対する忌避感が強く、火力発電に頼らざるを得ない状況です。
「化石燃料を燃やして作った電気を使ってEVを動かしても、温暖化への歯止めにならないのでは?」という議論が起きるのも当然ですね。
原子力発電は、燃料の取扱いや安全性確保の難易度が高いものの、CO2やNOxなどを排出しない点では非常にクリーンな電源なんですけどね。
充電ステーション不足の問題
EV普及を妨げる問題の一つが充電ステーションが足りないこと。
今のところ、充電ステーションは自動車ディーラー、パーキングなどを中心に整備されつつありますが、充電に時間がかかるのがネックです。
充電ステーションも数が多いところはそんなになく、先客で埋まっていれば数十分は待たなければなりません。
そうなると次の行動や時間を読みづらく、どうしても使い勝手が悪くなります。
充電ステーションを増やせばある程度は解決しますが、充電時間だけはバッテリーが画期的に進化しないと改善しません。
中国では、バッテリーを規格化して取り外しできるようにし、充電ステーションでは満充電のバッテリーと交換することで、充電時間を短縮する取り組みが行われています。
充電されたバッテリーパックが常に補充されていればいいのですが、繁忙期には交換用バッテリーパックが無くて、充電せざるを得ない状況も出てくるでしょうね。
バッテリー寿命の問題
バッテリーの寿命問題もあります。
バッテリーの充放電は化学反応によるもので、充電・放電を繰り返すうちに素材が劣化してしまうという欠点があります。
EVで使われるバッテリーはリチウムイオン電池で、スマートホンで使われる電池と基本的に同じです。
スマホも2~3年も使うと、新品時よりもバッテリーの持ちが悪くなりますよね。
それと同じことがEVでも起こります。
日産リーフのバッテリー寿命は「8年または16万km」としています。
バッテリー40kWhの交換パッケージが約140万、62kWhの場合は約240万かかります。
EV化の煽りをうけてバッテリーは世界的に争奪戦なので、この交換費用も時期によって変動します。
ちなみにリッター20kmのガソリン車であれば、16万km走るのに約8,000リットルのガソリンを消費するので、仮にカソリンがリッター160円としても、16万kmの走行には128万円で済みます。
つまり、バッテリー交換費用+充電する電気代を考えれば、ガソリン代を払ったほうがトータルの運用コストが安くなる、ということになります。
寒さに弱いバッテリー
バッテリーは気温が下がると容量が少なくなる、という性質があります。
これは、バッテリーの充放電は化学反応なので、気温が下がる冬場は化学反応が遅くなり、それによって取り出せる電力が相対的に少なくなってしまうことが原因です。
よく冬場になると、TVのリモコンやリモコンキーの反応が悪くなったりしますよね。
あれは、気温の低下により電池の内部抵抗が上がって電圧降下が生じてしまい、機器を動作させるだけの電力が取り出せなくなってしまうからです。
温暖な地域ならあまり問題になりませんが、大雪で立ち往生してしまうと、バッテリーの容量低下はそのまま生命の危機に直結してしまいます。
欧州ではEV化施策を方向転換
欧州連合(EU)は2035年までにガソリン車の新車販売を撤廃する方針を転換し、環境によい合成燃料を使うエンジン車を認めると表明しました。
EU圏でも、完全なEV化には全面賛成というわけではなく、各国で意見が分かれています。
北欧圏の国では、バッテリーの容量低下は命取りですから、いくらゼロエミッションとはいえ諸手を挙げて賛成できません。
現時点では、ガソリンと電気を併用するハイブリッド車を許容しながら緩やかにEV化に向かうのが最適解だと思いますが、そうなるとトヨタの独壇場ですから、日本車を排除したいEUがHEVをすんなり許容するとは思えません。
そのため「環境によい合成燃料を使うエンジン車」という、暗にガソリンを使ったハイブリッドを除外しています。
「e-fuel」という、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成した燃料で、ガソリンや灯油の代替となる燃料です。
e-fuelも燃焼させるとガソリンと同じようにCO2を排出するのですが、大気から回収したCO2を合成して燃料を作るので、CO2の排出は差し引きゼロ、という理屈です。
現時点では燃料の製造コストが1リッターあたり500円とかなりのコスト高ですが、このe-fuelの技術革新を進めてEUのハイブリッド戦略の核としたいようです。
とは言っても、トヨタにしてみれば燃料がガソリンからe-fuelに変わるものの、ハイブリッド技術は20年以上もの蓄積があるわけで、海外メーカーがキャッチアップするのは容易ではありません。
トヨタの全方位戦略が功を奏した形ですね。
EUは欧州メーカーを優遇するために、今後も様々な手を打ってくるでしょう。
EUの環境政策、自動車政策は今後も目を離せませんね。
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