世の中にはいろんな用途のバイクがありますが、カタログスペック(仕様諸元)を見ても、何のこっちゃよくわからない、という人も少なくないかと思います。
また、それぞれの意味を解説しているサイトはありますが、その数値を知ることでどういう特性があるのかまで解説しているところはまだまだ少ないです。
今回は、カタログスペックの簡単な見方を紹介します。
試乗しなくとも、スペック表からどういった特性なのか想像する手助けになりますよ。
誰も教えてくれないスペック表(仕様諸元)の見方
ちなみに「スペック」とはspecification(仕様)の略で、英語圏の人もspecificationと書くのが面倒なので、よく”spec.”(スペック)と省略します。
軸間距離(ホイールベース)の意味
軸間距離(ホイールベース)とは、前輪の中心と後輪の中心の距離のこと。
なぜこの数値がカタログに記載されているのでしょうか?
それは、この数値が操縦性に大きく影響するからです。
簡単に言うと、ホイールベースが長ければ長いほど、直進安定性に優れた特性を持ちます。
その反面、長いホイールベースは旋回性に劣るため、コーナーリング時の取り回しがやや重くなります。
逆にホイールベースが短いと直進安定性は劣りますが、コーナーリングではクイックな切り返しができるので、ワインディングロードをテンポ良く走ることができます。
ホイールベースの長さと操縦性は以下の関係になります。
軸間距離(ホイールベース) の長さ | 操縦性 | |
直進安定性 | 旋回性 | |
長い | ○ | △ |
短い | △ | ○ |
一般的に、ツアラーやクルーザーなどの車種はホイールベースが長めで、スポーツモデルやネイキッドは短めに設定されています。
用途を考えれば納得ですね。
最低地上高とシート高はセット
最低地上高とは、地面とエンジン下部までの距離を表します。
オフロード車は悪路を走ることを想定していますので、サスペンションのストロークが長く、最低地上高を大きめに取っておく必要があります。
最低地上高が低いと、サスがフルボトムしたときにエンジンが地面とぶつかってしまい、安定した走行が出来なくなります。
逆にオンロードモデルは悪路を走ることは想定していませんので、サスペンションのストロークもオフロード車ほど大きくする必要がありません。
また、重心を低くすることで直進安定性や旋回性が向上するため、オンロード車はオフロード車に比べて最低地上高を低くすることができます。
そのため、最低地上高が大きいオフロード車は、自ずとシート高も高くなります。
身長170~175cmぐらいだと、両足がべったり着くオフロードモデルはまずありません。
その用途を考えれば致し方ありませんが。
シート高800mmは車種が違えば意味も違う
カタログにはシート高も必ず記載されていますが、250ccのシート高800mmとビッグバイクの800mmでは足着き性が大きく変わります。
これは車幅、主にシート幅が違うからです。
どういうことかというと、並列4気筒のビッグバイクはエンジンが横に張り出すため、デザイン的にもシート幅が大きめになり、その結果、跨がったときに足が横に開く形になるからです。
一方、250ccの単気筒、もしくは2気筒エンジンでは4気筒エンジンほど横幅をとらず、シート幅もスリムになります。
慣れていれば、カタログのシート高に加えて、エンジン形式や外見からおおよそ想像がつくようになりますが、それでも足着き性は実際に跨がってみないとわかりません。
例えば、僕が今乗っているSR400のシート高は790mmですが、
身長172cmの僕でも両足ベッタリ、踵まで着きます。
一方、ホンダPCX125(スクーター)のシート高は764mmです。
カタログ数値ではSR400よりも25mmもシート高が低いので、両膝が曲がるぐらいの足着きかと思いきや、なんと踵が浮くぐらいの足着き性なんです。
PCXはユーティリティバイクですから、シート下にヘルメットも入れられる程の収納スペースを確保しています。
そのためどうしてもシート幅が広くなってしまい、シート高はSR400よりも低いものの実際の足着き性は悪くなります。
ということで、シート高に関してはカタログスペックだけでは判断し辛い部分があるので要注意です。
最大出力(馬力)は排気量換算して比較してみる
カタログを見るときに一番気になるのはやはり最大出力(馬力)ではないでしょうか。
しかし、250ccで37psとか、650ccで68psと言われても、よほどオートバイに精通していないとその数値がスゴいのかマイルドなのかピンとこないですよね。
そういうときは、あくまでも目安ですが1000cc換算してみるとわかりやすいです。
例えばNinja250の27kW(37ps)はスゴイのかどうか。
250ccで37psということは4倍すると1000cc相当なので
27kW(37ps) x 4 = 108kW(148ps)
1000ccに換算するとなんと148ps、かなりのハイパワーであることがわかります。
例えば、先日惜しくも生産終了となったセロー250は14kW(20PS)なので、1000cc換算すると
14kW(20ps) x 4 = 56kW(80ps)
なので、かなりマイルドな出力であることがわかります。
とは言っても、セローはハイパワーが魅力のバイクではなく中低速で粘りのあるトレールモデルなので、最高出力が高くないことが悪いわけではありません。
もう一台見てみましょう。
カワサキのW800の場合は最高出力が38kW(52ps)ですが、1000cc換算すると
38kW(52ps) x (1000/800) = 48kW(65ps)
こちらも1000cc換算で65psなので、かなりマイルドな特性であることが想像できます。
W800はスーパースポーツのような走りを追求する車種ではありません。
ネオクラシック路線を狙ったパラレルツインなので、ピークパワーよりも乗りやすさを追求した特性に振っているわけです。
かつては二輪車の国内販売はメーカーの自主規制で1000cc以上は100psまでとされていましたが、海外での販売競争や、製品を国内版・輸出版の2系統で管理する負担が重いことから、2007年に撤廃されました。
規制撤廃によって、現在では1000cc以上のバイクでも200ps(147kW)を超える車種も市販されています。
余談:ハイパワースクーター
2スト50ccスクーターの馬力競争が凄かった80年代、ホンダ スーパーDioが50ccで7.0psとかなりの高出力でした。
と思うかもしれませんが、排気量を1000ccに換算してみると出力は140psで、Ninja250とほぼ同等、Z1000を凌ぐパワーです。
事実、乗ってみるとかなりのハイパワーで、何も考えずにアクセルを開けると簡単にウイリーするほどパワフルなエンジンです。
出力が大きければ大きいほうがいい、というわけではありませんが、最高出力はその車種の性格を表す指標にもなるので、1000ccに換算することでいろんな排気量のパワー特性を想像をすることができます。
車重を最大出力で割ると加速性能がわかる
車とバイクではどちらが加速性能がよいでしょうか?
バイクに乗ってる人であれば想像がつくと思いますが、停止状態からの加速性能は一般的にバイクのほうが高いです。
なぜバイクのほうが加速がいいのかと言えば、重量出力比(パワーウェイトレシオ)が低いから。
車重を最大出力で割った値が重量出力比(パワーウェイトレシオ)ですが、これは言い換えると「1馬力あたりで負担する重量」です。
つまりパワーウェイトレシオは、数値が低ければ低いほど加速性能が高いことを示します。
例えば、スポーツカーであるGR86は車重が1,500kgで最大出力が173kW(235ps)です。
1,500kg / 235ps = 6.38[kg/ps]
1馬力(ps)あたり6.38kgを背負っていることになります。
一方、スポーツモデルではない、いわゆるネイキッドのCB400 Super Fourは、車重が201kgで最大出力が41kW(56ps)です。
201kg / 56ps = 3.59[kg/ps]
1馬力(ps)あたりの負担が3.59kgですから、GR86よりもCB400のほうがスタートダッシュの加速性能が高いことが読み取れます。
カタログスペックの最大出力で比較することにあまり意味が無い、というのはこういうことからも言えるわけです。
スペック(仕様諸元)の意味を知るともっとバイクが楽しくなる
カタログに乗っているスペック(仕様諸元)は、メーカーがただ羅列しているわけではなく、それぞれには意味があります。
また、複数のスペックを組み合わせると、もっと深く特性を知ることもできます。
80年代のバイクブームのときは、メーカーがこぞってカタログスペックにこだわって開発をしていましたが、最近はそういった表面上のスペックよりも、全体調和の取れた仕上がりを目指したバイク作りにシフトしています。
新型のハヤブサも最高出力が197psから190psにダウンしましたが、それは遅くなったのではなく、中低速領域でのパワーアップを図ったことによるものでした。
事実、最高速は299km/hで旧型と変わりませんし。
そもそも、公道で190psを振り回せるところはどこにもありませんから、中低速寄りに味付けを変えたのは市場ニーズに合わせた変更と言えます。
カタログスペックを読み取れるようになると、気になるバイクの性能を推測することができて面白いですし、乗換えするときの事前検討の参考にもなります。
コメント