ネットでカー用品を見ていると、「○○するだけで燃費が××%アップ!」とか「○○を付けるだけでヘッドライトの明るさが蘇る!」とか、つい目を疑ってしまいそうなグッズがたくさん売られています。
しかしそういったグッズは、目立った効果が見られないか、「付けてみてなんとなく変わったような気がする」程度の実感しか得られないものがほとんどです。
今回はそんな怪しげなカー用品に騙されないように、オカルトカーグッズの特徴について書きたいと思います。
こんなオカルトグッズに騙されないで!
マフラーに取り付けて燃費改善
マフラーの出口に扇風機の羽根のようなモノを付けるタイプや、マフラーに耐熱バンドのようなものを巻きつけるようなタイプのカー用品で、燃費改善を標榜するグッズです。
こういった商品の謳い文句によくあるのが
・「ベルトが持つ磁力が、バラバラになったイオンを整え排気ガスを整流することで排気抵抗を減少!」
みたいなキャッチコピーです。
冷静に考えてみれば、マフラー出口に何か付ければそれだけで排気抵抗が増えますし、磁力でイオンを整えるとかもはや意味不明です。
燃料ホースに巻きつけて燃費改善
以前見かけたのが、燃料ホースに巻きつけると燃費改善するというグッズ。
なんでも、「結合した燃料分子が磁力で分離されて燃費効率アップ」するそうですが、これもまた意味不明です。
ガソリンの組成が磁力で分解される、と言ってるのでしょうか?
「燃料分子」の意味がわかりませんが、仮に磁力で分子が分離されたとして、それがなぜ燃費効率アップに繋がるのでしょうか?そこについての説明はありません。
怪しさ満点ですね。しかも2千円って。
バッテリー端子に接続して燃費改善
石鹸箱より一回りぐらい大きい、アルミの放熱フィン付きケースから2本の端子+ケーブルが出ている燃費改善グッズで、片方をバッテリーの+端子、もう片方を-端子に接続するというもの。
○ット○ナ○マという商品名で販売されているので目にした方もいるかもしれません。
その商品の効用ですが、
・バッテリー寿命の向上
・トルクアップ
・ライト照度アップ
・オーディオノイズの軽減
などなど、数々の素晴らしい効用が謳われています。
しかし、トルクアップと燃費向上はそれ自体が矛盾していますし、電源系をいじるとなぜトルクがアップするのか全く意味不明です。
この商品を分解した基盤を見ると、単にバッテリーの両端子間をコンデンサを繋いでいるだけなんですね。
直流電源の電源~アース間にコンデンサを入れるのは、電圧のふらつきを安定化させるか、電源ラインのノイズを除去する目的ぐらいしかありません。(バイパスコンデンサ→通称パスコン)
そういう意味では「オーディオノイズの軽減」には多少寄与するかもしれませんが、電気工学的に見ても燃費向上やトルクアップに効果があるとは思えません。
メーカーの説明文には「コンデンサの470μFが低速側、4700μFが高速側を受け持っている」とのことですが、回路図を見ると470μFと4700μFが並列に接続されています。
中学の理科で習ったと思いますが、コンデンサを並列で接続すれば容量は合成されて470μF+4,700μF=5,170μFのコンデンサがぶら下がって見えるだけです。低速も高速も関係無い。
しかも回路には直列に保護用のヒューズが入っているだけで抵抗(R)が入っていないので、コンデンサの充放電に時定数を持たせているわけでもありません。
よく考えてみてください。
もし外部機器を取り付けることで燃費が向上するなら、とっくに自動車メーカーが採用していると思いませんか?
自動車メーカーは燃費を向上させるために血の滲むような技術開発を積み上げてきています。それでも年々燃費向上に対するハードルが高くなり、エコカー減税の恩恵を受ける車種を投入するのに四苦八苦しています。
そんな状況なのに、バッテリーにコンデンサを並列接続するだけで燃費が変わるなら、僕が自動車メーカーのエンジニアだったら速攻飛びつきますよ。
でもそうはなっていませんよね….つまりそういうことです。
アーシング
アーシングとは、車のアースを強化することで電気の流れ道をスムーズにすることを指す造語です。アース(Earth)の動名詞化でアーシング(Earthing)。もちろん和製英語です。
売られているのは、ちょっと太めの電線に丸端子かU字端子がついてるただの電線で、バッテリーの-端子とボディを繋ぐだけです。
その効用は、
↓
・電気がよく流れるようになるのでエンジン始動が良くなる、ライトが明るくなる
といったことが謳われていますが、果たして本当でしょうか?
アーシングの効果を実感する人もいますが、多くは「なんとなく変わったような気がしなくもない」といったプラセボ効果の域を出ていない意見がほとんどです。
確かに、電源(バッテリー)から遠くなればなるほど電装ケーブルの長さ分の線路抵抗がかかりますので、その分電圧降下が生じるというのは理屈としてはあり得ます。
ただ、この電圧降下はあくまでも「理屈上」の話で、乗用車の電装ケーブルの線路抵抗なんて、接続機器の負荷抵抗に比べると無視できるぐらいに小さいです。
もし本当にアーシングを施してエンジン始動のレスポンスやライトの明るさが変わるのなら、元々のアース線に問題があるということ。
多くの場合は、
・コネクタ、端子が緩んでいる
・アース端子接続部が錆びている
・バッテリー自体が弱っている
といった問題が起きていることが多いですから、アース線追加する前に元々の不具合を取り除かないとダメだと思うんですよ。
もし「アーシングで始動が劇的に変わった!」のならアース不良がどこかにあるはずです。
もしテスターを持っているのなら、バッテリーのマイナス端子とボディの間の抵抗を測ってみてください。恐らくほとんどの場合0Ωか、あっても数Ω以下のはずです。
マイナス端子とボディ間が数十Ω以上の抵抗値を示している場合は、アース線のどこかが切れかかっているか接触不良が起きているはずです。(アース不良)
アース不良の原因追求をしないままアース線を強化するのは、ドブの詰まりを取り除かずに新たに排水路を引くようなものです。
特に問題が無いのならアーシングは必要ありません。
シガーソケットに差し込むと燃費改善?
シガーソケットに差し込むだけで燃費が改善するという、ここまで来るともはや電気知識の無い素人をバカにしているとしか思えないグッズなのですが、楽天でユーザーレビューが300件近く付いていて、平均4.1という高評価商品です。
単に5170μFのコンデンサを乗せているだけ(何に使ってるんだ?)なんですが、その謳い文句がスゴイ。
なぜトルクアップ/燃費向上するのか?
バッテリーは電気を貯める容量は大きいが瞬発力に欠ける。
一方、コンデンサは貯める容量は少ないが、瞬発力は非常に優れています。
つまり、2つの相反する要素を組み合わせることで、バッテリーだけでは不足しがちな瞬発力を補い自動車本来の性能を引き出してくれます。
瞬発力って何?放電スピードのことでしょうか?
流れる電流はオームの法則によって電圧と負荷抵抗で決まります。瞬発力も何もありません。バッテリーはコンデンサよりも電流流せないと言いたいのでしょうか?
そもそもシガーソケットにぶら下がってる機器から大電流を流したらヒューズ切れますよね。
ちなみに5,170μFって数字、見覚えありませんか?
そうです、上で紹介した製品の低速側コンデンサ470μFと高速側4700μFを合成した容量ですね。
回路と部品を流用しているんでしょうが、自分で合成容量を言っちゃダメでしょう(笑)
案の定、この商品は公正取引委員会から排除命令が出されています。
こちらは景品表示法のサイトです。
オカルト系グッズが好きな訴求ポイントとは
オカルトグッズは、人々の知見の薄いところを巧みに突いてきますが、それにはある程度パターンがあります。
オカルト系グッズが訴求に使う怪しげな言葉を解説します。
敵を知って己を知れば百戦危うからず、です。
オカルトグッズは”イオン”が大好き
スーパーのAEONじゃないですよ。電荷を帯びた原子の「イオン」です。
よく「パワースポットはマイナスイオンに溢れている」みたいなことを言いますよね。
でも、マイナスイオンがなぜ体にいいのかを理論的に説明できる人はほとんどいません。
ほとんどの人が「マイナスイオン=なんかいいらしい」ということがメディアの報道などで刷り込まれているんですね。
イオンとは電荷を帯びた原子のことを指す言葉で、正の電荷を帯びた原子をプラスイオン、負の電荷を帯びた原子がマイナスイオンと呼んでいるだけです。(プラスイオン、マイナスイオンは正確には陽イオン、陰イオンですが)
理科が苦手な人はこれだけでもう小難しくてお腹いっぱいですよね。
有名なのに小難しい言葉。だからオカルトグッズ業者がこの言葉を使うのです。
オカルトグッズは”磁力”が大好き
車に限らず磁力を使った健康グッズなども多いですよね。
「○○ガウスのパワーで筋肉の凝りをほぐす!」とか「磁力で血行を改善!」とか、果ては「老廃物を除去する」とか謳われています。腎臓いらなくなっちゃいますね。
これらの商品の効用はメーカーが提示するデータを見る限りプラセボ効果の域を出ないものがほとんどで、すでに米医学専門誌で磁力による医学的効果は無いと結論付けられています。
カーグッズの場合は、ガソリンの分子を整えるとか不純物を除去するとか謳っていますが、そもそもガソリンや排ガスに磁石に影響を受ける物質はありませんし、仮に百歩譲ってガソリンの分子が磁力で整えられたとしても、それが爆発力に影響することはあり得ません。
ガソリンという物質が組成変化するならまた別ですが、そうなったらもうガソリンではありません。
”イオン”や”磁力”を使った燃費改善が大好き
「○○の作用によって燃費が最大20%も向上!」みたいな謳い文句ですね。
○○の部分には「イオン」とか「磁力」が入ります。
結局、「小難しい言葉」に「燃費向上」が加わると、
って思っちゃうんですね、イメージだけで。
そういう意味で、さも物凄い効果があるような磁力系健康グッズのTVCMをバンバン流すのは、日本人の科学リテラシーを貶める罪作りな行為だと思います。
オカルトグッズは電気が好き
工業高校や大学で電気工学を専攻した人や、電子工作好きの人はこの手の商品にひっかかることはありませんが、それ以外の人は「電気ってなんかよくわからない」って人がほとんどじゃないかと思います。
電気って機械と違って目に見えないので感覚的に理解し辛いんですね。電気を理解するには理論を勉強しながら実験で確認していくしかありません。
でもそれも仕方ないと思うんですよ。
だって今の社会、電気回路を知らなくても生活で困ることはありませんから。
電子機器が壊れたらメーカーに出せば修理してくれますし、TVやDVDプレーヤー、インターネット接続はプラグの抜き差しだけですから、電気のことを知らなくても十分生活できちゃいます。
オカルトグッズ業者はそういった知識の「弱い」ところを巧みに突いてきます。
○ット○ナ○マのような機器を分解して廉価なコピー品をDIYする情報をネットにアップしている人がいますが、あの回路を書ける人がなぜあの回路に疑問を持たないのでしょうか?(笑
なぜオカルトグッズは燃費改善に多いのか?
まず車・バイクのランニングコストで一番お金がかかるのが燃料費です。
バイクだったらそうでもありませんが、車に乗っていてガソリン単価を気にしない人はほとんどいないのではないでしょうか?
ほとんどの人が「近所でできるだけ安いガソリンスタンド」を探して給油しているわけで、自動車オーナーの燃費に対する潜在的な関心が物凄く高いことをオカルトグッズ業者は知っています。その心理を突いてくるのです。
燃費って運転の方法、道路状態、乗車人数、タイヤ空気圧によって全然違うんですね。
同じような条件で運転しても微妙に変わるのが燃費です。
つまり「燃費向上」というキーワードはカーオーナーの潜在意識にある
・ガソリン代は安くしたい
という意識にぶっ刺さるんですね。まさにマジックワード。
人は身銭を切って購入した商品は、例えそれがイマイチだったとしても(買い物に)失敗したと思いたくないがために「いいモノ」だと思い込もうとします。「これはいいモノなんだ」と。
楽天やアマゾンのユーザーレビューにはそうしたプラセボ効果的な評価が集まって高評価になっているグッズも少なくないので、ユーザーレビューをそのまま鵜呑みにしないように注意しましょう。
まとめ
・「燃費向上」は、どういう仕組みで燃費が向上するか見極めよう
・電気のことがわからなかったら詳しい人に聞こう
今回取り上げたオカルトグッズは、たまに公正取引委員会から排除命令が出されたりしていますが、排除されては雨後のタケノコのように次から次へと新しい怪しげなグッズが販売されています。
これは氷山の一角ですが、これだけの商品の排除命令が出ているということは、それだけ騙されているユーザーも多いということ。
ユーザーの無知につけこんだ商売は非難されるべきですが、私達ユーザー側も怪しい商品を見分ける知識を身に着けておかないと、いつ餌食にされるかわかりません。
燃費改善グッズの商品レビューに効果を実感する賛辞が並んでいるのを見ると、驚きを通り越して悲しくなってきますね。
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