年明け早々のニュースでご存じの方も多いと思いますが、スマホの「ながら運転」が厳罰化されそうです。
今回はスマホのながら運転厳罰化の背景と、どのような法改正になるのか?について解説します。
背景
以前から運転中の携帯電話の使用については道路交通法によって規制されていましたが、スマホ画面を注視していたことによる事故が近年増加傾向にあり社会問題となっています。
以下は警察庁資料からの引用です。
携帯電話使用等に係る交通事故発生状況(平成28年度中)
1.平成28年中の携帯電話使用等に係る交通事故は1,999件発生しており、5年前(平成23年)と比較すると約1.6倍となります。
特に、スマートフォン等の画面を見たり操作したりして起きた事故(以下「画像目的使用の事故」という。)は、約2.3倍となります。
2.平成28年中に死亡事故は27件発生しており、そのうち画像目的使用の事故は、17件と死亡事故全体の約63.0%を占めています。引用:https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/keitai/info.html
全国で年間700万件の取締りの内、運転中の携帯電話使用等の取締りは約100万件なのだそうです。実に全体の1/7が携帯・スマホ関連の取締りなんですね。
運転中の携帯電話使用が増加したことで、平成16年に道路交通法が改正されて運転中の携帯電話使用について制限されるようになりました。
しかしこの法律が施行されて14年経過しても、運転中の携帯・スマホ使用による摘発が増加傾向にあるということは、法規制による抑止効果が働いていないことになります。
こういった背景が厳罰化の流れにつながっています。
道路交通法のおさらい
道路交通法の改正ポイントの前に、まずはスマホがどの法令で規制されているかおさらいしておきましょう。
運転中のスマホ使用はどの法令で規制されているか?
運転中の携帯電話、スマホ、カーナビの使用は道路交通法第71条(運転者の尊守事項)の5項の5で制限されています。
以前、運転中のハンズフリー通話について解説記事を書いたのですが、同じ条文で規制されています。参考までにどうぞ。
重要なので当記事でも引用します。
五の五 自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第百二十条第一項第十一号において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第十六号若しくは第十七号又は第四十四条第十一号に規定する装置であるものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)に表示された画像を注視しないこと。
前半は携帯電話使用について規制していますが、後半の太字部分の「当該自動車等に取り付けられもしくは持ち込まれた画像表示装置」がカーナビ、ポータブルナビ、スマホを指しています。
ちなみにカッコ書きにある除外規定は
(道路運送車両法第四十一条第十六号若しくは第十七号又は第四十四条第十一号に規定する装置であるものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)
とあります。では「規定する装置であるものを除く」の”規定する装置”とは何なのか?道路運送車両法の第四十一条を見てみましょう。
道路運送車両法第四十一条
(略)
・十六 後写鏡、窓ふき器その他の視野を確保する装置
・十七 速度計、走行距離計その他の計器道路運送車両法第四十一条
(略)
・十一 速度計(※原動機付自転車)
つまり、後写鏡(バックミラー)、窓ふき器(ワイパー)、ダッシュボードの計器を除く、画像表示装置(携帯、スマホ、カーナビ)を注視しちゃダメよ、ということです。
法律の文章は「同じことを二度書かない」ことが基本なので、他の条文の引用が多くて読みづらいのですが、これは法律を改正するときの手間を最低限に抑えて矛盾や穴を最小限にするためで、ある意味仕方ありません。
仰々しく書いてあって読むのが大変ですが、一つ一つ追っかけて読み解くと、そんなに大したことを言ってるわけではありません。
現状の罰則
現状は道路交通法119条で以下のように規定されています。
第一一九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
(略)
九の三 第七十一条(運転者の遵守事項)第五号の五の規定に違反し、よつて道路における交通の危険を生じさせた者
引用:http://elaws.e-gov.go.jp/
罰金の規定はありますが、この違反は交通反則通告制度の対象なので、道路交通法施行令の別表第二および別表第六で反則金および違反点数などの行政処分内容が決められています。
反則金:9,000円(普通) 違反点数:2点
・携帯電話使用等(保持)
反則金:6,000円(普通) 違反点数:1点
”交通の危機”とは運転中に携帯やスマホを使って信号無視や事故などを起こした場合に適用され、”保持”は運転中に使用していた場合に適用されます。
いずれの場合でも反則金を支払えばそれで終わりなので、違反という観点で言えば運転中の携帯・スマホ使用は比較的軽微な部類に入ります。今までは。
どういう法改正になるの?
で、今回の厳罰化のポイントは2つあって、一つは「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」というのが「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」に厳罰化されることです。
そしてもう一つは、この行為が交通反則通告制度の対象から外れるということ。
これはどういうことかと言うと、今までは青キップ+反則金で済んでいたのが、法改正されれば赤キップ+罰金になり、いきなり刑事処分が科せられるようになります。(青キップ+反則金は行政処分であり刑事罰ではありません)
速度違反での赤キップは「6月以下の懲役(過失の場合は3月以下の禁錮)又は10万円以下の罰金」と定められていますので、どんなに速度違反しても10万円以上の罰金はありません。
しかし、携帯・スマホ使用による赤キップとなれば「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」なので最高で30万円の罰金を言い渡される可能性があります。これは速度違反などよりもはるかに重い罪に問われることになります。
また速度違反での赤キップは一発免停ですから、それよりも厳罰化される運転中の携帯・スマホ使用も当然免停となる違反点数が設定されることでしょう。
このことからも、今回の法改正は運転中の携帯電話使用、スマホ使用、カーナビ操作についてかなり厳しい姿勢であることが伺えます。
まとめ
スマホによる「ながら運転」の厳罰化は、これから国会審議に入る段階なのでまだ決定したわけではありませんが、取締り件数の1/7近く、約100万件が運転中の携帯・スマホ使用に係る事案であることから、安保法案のような大きな反対は無さそうです。
僕もたまにスマホのながら操作で危なっかしい運転を見かけますし、スマホのよそ見で死傷者が出た事故報道を聞くと非常に胸が痛みます。
なので法案提出には賛成なのですが、「携帯やスマホを注視した」ことを現認するのは現場警察官の目視だけなので、ノルマ達成のための違反検挙といった恣意的な運用がなされるのではないか?といった懸念はあります。
そのあたりが払拭されて、本当に携帯・スマホによるよそ見運転や事故が無くせるのであれば大歓迎です。
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