よく
「前科がついてしまうと、履歴書の賞罰欄に記載しなければならない」
「賞罰欄に記載しないと経歴詐称になり、後でバレると解雇される」
ということを耳にします。
これは厳密に言えば事実ですが、実生活上は問題にならないケースも少なくありません。
「スピード違反で赤キップを切られたけど、履歴書に記載する必要があるのだろうか?」と悩んでいる人は一読してみてくさい。
前科とは何か?
そもそも前科とは何でしょうか?
実は「前科」とは法律用語ではありません。一般的には、裁判で有罪判決を受けることを「前科」と呼んでいます。
窃盗や傷害、果ては殺人なども裁判で有罪判決を受ければ前科になります。
「スピード違反で赤切符を切られたときは罰金払って終わりだったよ」という人もいるかもしれませんが、それは法廷での裁判ではなく略式裁判と言って流れ作業的に罰金刑が確定したのです。
要するにスピード違反の事実を認めたので「正式な裁判を開かずに略式裁判で罰金刑の判決を言い渡した」ということです。
そのため、スピード違反による罰金刑も裁判によって言い渡されているので「前科」になります。
前科がつくとどうなるの?
罰金刑以上の刑が確定すると、その戸籍を管理する市区町村に置かれている「犯罪人名簿」に有罪判決の内容が記録されます。当然、過去に犯罪を犯していればその内容に加えて今回の有罪判決の内容が記載されることになります。
なぜ戸籍を管理する市区町村で犯罪人名簿を管理するのかと言うと、有罪判決を受けると選挙権、被選挙権に制約を受けるからです。
選挙権、被選挙権は禁固刑以上の刑に処されてその執行をうけることが無くなるまで停止されますし(なので受刑者に投票権が無い)、被選挙権に関して言えば、公職中に汚職などで禁錮刑以上を受けたものは、刑の執行が満了してから10年間は立候補することができません。
選挙権、被選挙権を行使する資格がないまま投票したり、立候補することが無いようにチェックする必要があるわけです。
赤切符で犯罪人名簿に記載されるの?
赤切符による罰金は略式裁判とは言え正式な罰金刑ですが、犯罪人名簿には記載されません。
というのも、各市区町村で管理する犯罪人名簿は法務省の犯歴事務規定によって運用されていますが、道交法の罰金刑は除外されています。
以下に犯歴事務規定の第二条を引用します。
第2条 電子計算機により把握する裁判は,次に掲げる裁判以外の有罪の裁判(以下「電算処理対象裁判」という。)であつて,確定したものとする。
(1) 次に掲げる者(以下「非電算処理対象者」という。)に対する裁判
ア 本邦に本籍がある明治以前の出生者及び本邦に本籍がない大正以前の出生者
イ 本籍が明らかでない者
ウ 法人又は団体
(2) 道路交通法,道路交通取締法,道路交通取締法施行令,道路交通取締令又は自動車の保管場所の確保等に関する法律違反の罪に係る裁判であつて,罰金以下の刑に処し,又は刑を免除するもの(以下「道交裁判」という。)
引用:http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji21.html
ということで、赤切符での罰金刑が確定して支払いが終えている場合は、犯罪人名簿には記載されません。
仮に簡易裁判を拒否して正式裁判に進んで本裁判で罰金刑を言い渡されても、同規定によれば犯罪人名簿には記載されないことになります。
赤切符での罰金刑は履歴書の賞罰欄に書かなくてもいい?
一般的に履歴書の賞罰欄には「刑事罰」について記載します。
刑事罰とは犯罪を犯して懲役刑、禁固刑、罰金刑などがあります。
これで言えば赤切符による罰金刑は賞罰欄に記載しなければなりませんが、仮に記載しなかったからと言って虚偽記載に当たるかと言えばそうとも言えません。
虚偽記載が与える損失はどのくらいか?
多くの企業では就業規定に
を懲戒事由にしていると思います。(文言は多少違いますが概ねこんなことが書いてあると思います)
また入社時には「会社の名誉、信用を貶める行為を致しません」「前項を守れず違反した場合は、降格・減給・解雇処分とする」といった誓約書に署名を求められる会社が多いので、「赤切符で罰金刑を受けたことを履歴書に書かなかったことがバレたらどうしよう」という心配が上がるのでしょう。
仮に赤切符で罰金刑を受けたことが会社にバレて、会社側がこの就業規定と誓約書を理由として懲戒解雇しようとしても、「過去に赤切符で罰金刑を受けたことを告知しなかったことが、会社側にどの程度の不利益を与えたのか」という点を明確にしないと不当解雇に当たるかもしれません。
過去に、履歴書の虚偽記載を理由に懲戒解雇された人が不当解雇を争った裁判がありましたが、裁判所は
「原告には本件経歴を申告しなかったという不作為にとどまること」
「原告の勤務態度には特段問題があったと認められないこと」
「本件賞罰に関して原告が自発的に申告する義務があったともいえないこと」
などを勘案して「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、解雇が相当であると認められない」として懲戒解雇を不当と判決しました。
つまり、賞罰欄に記載しなかったことは問題ではあるものの、その行為が与える損害がいかほどなのか?実害が無いのであれば、単なる不作為を根拠に懲戒解雇してしまうことはやりすぎでしょ、と裁判所は言ってるわけです。
例えば、過去に窃盗で刑事罰を受けた人がそのことを隠して警備会社に入社したりすれば、会社側に与える不利益は少なくありません。
警備会社は顧客との信頼関係の上で、アラームがあれば顧客の施設に合鍵を使って入ることも業務として請け負っています。過去に窃盗を犯した人間をその業務に就かせることは、顧客との信頼関係を壊し、会社の信用を貶めることに繋がるため、虚偽記載を理由に懲戒解雇することには「一定の合理的な理由」があると言えるでしょう。
一方で、過去に窃盗を犯した人がそのことを隠して建設業に従事したとしても、その不作為によって会社側に与える不利益は微々たるものです。この場合、虚偽記載を理由とした懲戒解雇は「客観的に合理的な理由を欠く」と裁判所に判断される可能性があります。
赤切符で罰金刑を受けたことは調べようが無い
そもそも赤切符で罰金刑を受けたことは、新聞に載るぐらい悪質な違反でなければ企業側では調べようがありません。
赤切符(非反則行為)の記録は警察、検察で管理していますが、一般企業からの問い合わせで答えてくれる類の情報ではありませんし、例え探偵に依頼しても調べることができません。
つまり交通違反の罰金刑は第三者が調べようが無いのです。
最近の履歴書には賞罰欄が無い
最近のJIS規格の履歴書にはそもそも賞罰欄がありません。
そういった履歴書を使えば、わざわざ賞罰を書かなくてもいいですね。
履歴書に罰金刑を受けたことを記載したほうがいいケース
ドライバー職に応募する場合
運送業やバス、タクシーなどのドライバー職に応募する場合は、赤切符で罰金刑を受けたことを記載しないのは重大な告知義務違反になります。
この場合は経歴詐称を理由に懲戒解雇されても、裁判所も「解雇は妥当である」と認められる可能性が高いです。
それにドライバー職では、ほぼ例外なく「運転経歴証明書」の提出を求められます。
この運転経歴証明書は過去5年間の違反、行政処分について記載されますので、仮に履歴書の賞罰欄に「なし」と記載したにもかかわらず運転経歴証明書で罰金刑を受けたことが判明すれば、虚偽記載となり懲戒解雇の理由となり得るのです。
最近は運送業も人手不足なので、過去に赤切符を受けたことがあるだけで不採用になることは少ないと思います。
どのみち運転経歴証明書も提出しなければならないのですから、履歴書には正直に記載したほうがいいでしょう。
まとめ
・賞罰欄に記載しなかったからと言って懲戒解雇されるのは不当解雇の可能性あり(ドライバー職は除く)
・ドライバー職への応募は運転経歴証明書でバレるので正直に書くべき
・心配なら賞罰欄の無い履歴書を使う
最近の履歴書に賞罰欄が無くなったのは、一説によると、犯罪を犯した人が社会復帰する際、賞罰欄があるがために過去の犯歴を記載しなければならず、また記載すれば採用されないという悪循環に陥ってしまうことを回避するためと言われています。
個人的には、賞罰欄の無い履歴書を使えばいいと思いますし、仮に面接で聞かれた場合は正直に答えればいいと思います。
実際、赤切符を切られて罰金刑を受けたぐらいでは会社から処分されることはまずありませんし、処分されるとすれば運転を生業とするドライバー職ぐらいでしょう。
コメント
悪質な交通違反は、多くの人のいのちに関わる重大な犯罪です。それゆえに刑事責任が問われているのです。罪を犯したことによる前科は、他の刑法犯などと一切変わることはありませんし、決して社会的に許されるものではありません。わたしたちは、厳に犯罪を許さず、きちっと社会制裁を行うことを促し、犯罪抑止に努める必要があります。間違った内容を改め、犯罪抑止にご協力をお願いいたします。
ちなみに、悪質な交通違反について、多くが実名報道に至らないのは、残念なことに人数が多すぎるがゆえと聞いたことがあります。1件でも犯罪を減らし、自分勝手な運転を原因とする交通事故による犠牲を減らさなければいけませんね!
中村琢 さん
コメントありがとうございます。
まず初めに、当ブログでは犯罪を揉み消すことや罪を逃れることを指南しているわけではありません。
悪質な交通違反を犯した者あっても、裁判で裁かれ刑に服した後はいずれ社会復帰する必要があります。一度でも重大な交通違反を犯した人間は二度と社会復帰できないという社会が理想だとすれば、そういった元犯罪者は生活保護で救済しなければならず、それは真っ当に生きている人達の税負担を増すことにつながります。
過去に犯した交通事案を真摯に反省し、社会復帰(就職)を目指す人には手を差し伸べてあげるべきではないでしょうか。
貴重なご意見、ありがとうございました。