最近は原油高の煽りを食らってガソリンの価格がメチャクチャ上がっており、市民生活にも影響を及ぼし始めています。
ガソリン価格が上がれば、個人の遠出するモチベーションを後ろ向きにさせますし、物流トラックの燃料代も影響するので、あらゆる生活物資の価格が上がります。
そんな中、最近やたら取り沙汰される「トリガー条項」とは一体なんでしょうか?
答えを先に言うと、トリガー条項とは「ガソリンが一定価格価格以上になったときに、課税されている揮発油税の徴収を辞める」というもの。
なぜそんなことをするのか?を次から解説していきます。
ガソリン価格の仕組み
ガソリン価格は、ガソリン本体価格にガソリン税(53.8円)を加えた価格が店頭小売価格になっています。
例えば、ガソリン1リットル150円であれば、そのうち53.8円が税金なわけです。
100円/Lの時代は「ガソリンの半分は税金」なんて言われていましたね。今でも1/3は税金なわけですが。
トリガー条項とは
ガソリン価格が高騰すると国民生活に大きな影響が出ることから、レギュラーガソリンの価格が3ヶ月連続で160円/Lを超えたときは、ガソリン税53.8円のうち、上乗せ分(暫定税率分)25.1円の課税を辞める、というものです。
これは租税特別措置法の第89条(揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止)で定められています。
(揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止)
第八十九条 前条の規定の適用がある場合において、平成二十二年一月以後の連続する三月における各月の揮発油の平均小売価格がいずれも一リットルにつき百六十円を超えることとなつたときは、財務大臣は、速やかに、その旨を告示するものとし、当該告示の日の属する月の翌月の初日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税については、同条の規定の適用を停止する。
2 前項の規定により前条の規定の適用が停止されている場合において、平成二十二年四月以後の連続する三月における各月の揮発油の平均小売価格がいずれも一リットルにつき百三十円を下回ることとなつたときは、財務大臣は、速やかに、その旨を告示するものとし、当該告示の日の属する月の翌月の初日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税については、同項の規定にかかわらず、同条の規定を適用する。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/
「レギュラーガソリンの価格が3ヶ月連続で160円/L超え」で発動するため、トリガー条項と呼ばれます。”引き金”は英語で”trigger”ですね。
でも
なんで下がんないの?
って思いますよね。
これは、東日本大震災が起きて莫大な復興費用が必要となったことにより、当時の民主党政権によってトリガー条項は凍結されています。
だからガソリンが連続3ヶ月160円/Lを超えても暫定税率分が減らないのです。
トリガー条項を発動するためには
元々原油高の傾向にあったところに、ロシアがウクライナに侵攻を開始したため、この先、更なる原油高に見舞われる可能性が高くなりました。
政府としてもこのガソリン価格の高騰は見過ごすことができず、ガソリン元売り各社に、リッター当たり5円の補助金を政府予備費から支給することを決定。この補助金は後に25円/Lまで上げられました。
そうなると
という当たり前の意見が国民から上がってきたわけです。
元々、国民民主党は2021年末に「トリガー条項凍結解除法案」を衆議院に提出しており、かねてからトリガー条項の発動を発信しています。
ここまでガソリン価格が高騰してきたので、税金減らせばいいじゃんという意見は至極当たり前ですね。
しかしこのトリガー条項を発動させると、地方揮発油税や軽油取引税が無くなるため地方自治体の反発は必至です。
総務省の試算によると、暫定税率分が無くなると約5,000億円の税収が無くなるため、政府としてはトリガー条項の発動に後ろ向きと言われています。
暫定税率とは
日本のモータリゼーションが拡大していた1970年代に、道路整備五カ年計画の財源不足を補うために、1974年度から暫定措置として租税特別措置法第88条に基づいて、本来の税率(本則税率)と同額の税率を課すことにしました。
本来の倍の税金を課したわけです。
租税特別措置法の第88条にその規定があります。見てみましょう。
(揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例)
第八十八条の八 平成二十二年四月一日以後に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方揮発油税の税額は、揮発油税法第九条及び地方揮発油税法第四条の規定にかかわらず、当分の間、揮発油一キロリットルにつき、揮発油税にあつては四万八千六百円の税率により計算した金額とし、地方揮発油税にあつては五千二百円の税率により計算した金額とする。
2 前項の規定による揮発油税及び地方揮発油税については、地方揮発油税法第七条第二項、第九条第二項、第十条第一項、第十二条第三項及び第十三条第一項中「二百八十七分の四十四」とあるのは「五百三十八分の五十二」と、「二百八十七分の二百四十三」とあるのは「五百三十八分の四百八十六」として、これらの規定を適用する。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/
条文は1キロリットルで書かれていますが、リッター当たりだと25.1円になります。
この条項は35年以上延長され、2007年度末に期限切れになることから、延長のための改正案を当時の政府は国会に提出しましたが、民主党の反対により法案が通過できませんでした。(ガソリン国会)
法案が可決出来なかったために2008年3月31日に一旦期限切れとなりますが、その後の福田内閣が衆議院で再決議したため暫定税率が復活します。
しかしその後、2011年に起きた東日本大震災の復興財源に充てるために、東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の第44条で、別に法律で定める日までの間、トリガー条項の適用を停止することを定めました。
(揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止措置の停止)
第四十四条 租税特別措置法第八十九条の規定は、東日本大震災の復旧及び復興の状況等を勘案し別に法律で定める日までの間、その適用を停止する。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/
トリガー条項を適用させるには、上記条項の改正案を国会に提出して法律を改正する必要がある、という訳です。
トリガー条項のまとめ
政府与党としては、法律で定められている暫定税率を停止するトリガー条項は地方自治体の反発を招くため、補助金で凌ぎたいというのが本音でしょう。
しかし、国民生活の不便さを緩和するためのトリガー条項が使えない現在の状態は、法が機能していないことになるのと、徴収した税金から補助金を支出するのは二重の手間であり、本来であれば暫定税率の徴収を辞めれば補助金支出する手間が省けます。
いずれにせよ、ガソリン価格の高騰は市民生活に大きく影響するので、国会での議論に注視する必要がありますね。
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