ちょっと古い話ですが、2016年10月にヤマハとホンダは50cc以下の「原付一種」の開発・生産で提携すると発表しました。
僕が高校生だった1980年代は50ccスクーターが全盛で、ホンダとヤマハが二輪のシェア争いでしのぎを削り「HY戦争」とまで言われていたこの2社が提携するとは、随分と時の流れを感じてしまいます。
この背景には近年の排ガス規制の強化やバイク離れの進行があるのですが、このまま進むとこの50cc市場は近い将来無くなるだろうと言われています。
今回は、この50ccバイクが将来消滅してしまう理由について解説します。
排ガス規制に対応できなくなってきた
年々厳しさを増す排ガス規制は二輪車も例外ではありません。
二輪の世界では2000年代に入ってもしばらくキャブレター仕様車が多かったのですが、排ガス規制が強化されると、霧吹きのようなキャブレターによる燃料噴射では規制値をクリアできなくなり、電子燃料噴射方式(Electrical Fuel Injection:EFI)に切り替わってきました。
50ccでも燃料噴射方式をEFIにして排ガス規制をクリアしてきましたが、昨年から適用された平成28年度規制は欧州のユーロ4に合わせる形で規定されているため、排ガス基準値がユーロ3に比べて半分以下に設定されています。
一般的には排気ガスをクリーンにするのは排気量が小さければ小さいほど難しく、そのための技術開発には多大なコストがかかります。
もちろんメーカーはユーロ4規制をクリアする技術開発は可能だとは思いますが、少なくない開発コストを投入してユーロ4をクリアしたとしても、縮小する50cc市場では開発コストを回収するのもままならず、ビジネスとして成り立たせるのが難しいのです。
実際、ヤマハ発動機は記者会見の場でも「コストをかければ排ガス規制をクリアすることはできるが、価格が今の倍以上になってしまうのは避けられない。それでは50ccのメリットが無いし、40万円もする50ccスクーターは誰も買わないでしょう」と言っています。
では、なぜ50ccが売れなくなったのでしょうか?
二輪全体の売上減少
1990年には年間約160万台売れていた二輪車が、2016年では約30万台と全盛期の1/5まで落ち込んでいます。
これには様々な分析がありますが、一つは社会構造の変化による車・バイク離れが進んでいることが挙げられます。
長引くデフレで若年層の賃金が上がらず、車やバイクを買う余裕が無いことに加え、スマホなどのコミュニケーションツールに可処分所得を奪われていることも一因でしょう。
若者で「スマホよりも車・バイク」という人はまずいません。スマホは必須、その上で余裕があれば車やバイクが欲しい、という順位ではないでしょうか。
50cc自体も売れなくなってきている
二輪車の年間販売数を原付1種(50cc)にフォーカスすると、1990年に約120万台の販売数に対して2016年では16万台と1/7まで落ち込んでいます。
しかし原付2種(51~125cc)を見ると、2000年までは微減するものの、2000年~2016年までは年間販売台数が10万台前後で横ばいなんですね。
これはアジア地域では一般的な100~150ccスクーターの輸入が増えたことで、50cc特有の規制(公道上の30km/h規制、二段階右折、二人乗り不可)に不便さを感じるユーザーが原1から原2へシフトしていることが考えられます。
そうなると、年間16万台しかない50cc市場に対しての開発投資に前向きになれない、というメーカーの心情は理解できます。
50ccクラスは日本独自のカテゴリー
50ccは日本独自のカテゴリーで、1970年代にスカートを履いた女性でも足を閉じたまま乗れるスクーター「パッソル」が発売されると、一気にブームとなりました。
その後、モンキーやゴリラといったトイバイク的な商品や、ゼロハンスポーツと呼ばれたMB5、RG50、AR50、RZ50など、50ccは独自の進化を遂げたカテゴリーとなっていきました。
しかし世界的には、コミューター(通勤)市場は100~150ccが主流であり、日本国内だけで成熟した50ccバイクは海外に輸出しても売れないのです。
50ccを持て余しているホンダとヤマハの思惑が一致して、50ccの開発・生産の提携に至ったわけです。
ラインナップの整理・統合
そうなると今までのような多品種の商品ラインナップを維持するのが難しくなるため、商品の統廃合がより一掃進んでいくものと思われます。
バイクファンに長らく愛されてきたモンキーやゴリラといったトイバイクの生産が終了し、デビュー以来40年近くモデルチェンジせず販売されてきたSR400も惜しまれながら生産終了となりました。
一方ではリターンライダーによるビッグバイク市場が好調で、先日の東京モーターショーでも話題となったカワサキZ900RSなど、リターンライダーをターゲットにした新商品の投入が行われています。
全体として二輪市場は緩やかに縮小していくものの、商品ラインナップを絞ってよりターゲット(購買層)絞った商品開発が進んでいくでしょう。
いずれホンダ、ヤマハ、スズキの各社は原付1種の開発から撤退して、原付2種、とりわけグローバルモデルとなる125ccの開発にシフトしていくものと思われます。
まとめ
・さらに追い打ちをかけるように2016年に新排ガス規制(平成28年度規制)が施行
・縮小傾向の50cc市場に多大な開発コストを投入して新排ガス規制に対応してもコストの回収が難しい
・世界的にスクーターは125ccが主流
僕が高校、大学時代にお世話になった50ccスクーターが衰退してしまうのは少し寂しい気もしますが、市場が縮小している以上、この流れは止まらないでしょう。
しかし考えてみれば、原付1種は30km/h以上出せなくて交通の流れに乗れないことがかえって危険なことや、都内では二段階右折なる摩訶不思議な交通ルールに従わなければならないなど、使い勝手の悪さは以前から指摘されていました。
これを期に50ccユーザーが125ccに移行すれば、50ccで怖い思いをすることも減りますし、メーカーもグローバルモデルと開発を共通化できるので、スケールメリットを活かした安価な原付2種が市場に投入されることが期待できますね。
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