運転免許を持っている人が、自転車で通行中にバイクと接触事故を起こし、バイク側が負傷したのにそのまま現場から逃走してしまった場合、どのような行政処分となるでしょうか?
結果から言うと、この自転車を運転していた男性は所持している運転免許について停止処分とされています。
一見、免許なしで運転できる自転車と所持している運転免許は無関係な感じがしますが、実は深い関係があるのです。
自転車でも問われる「救護義務違反」
事件は2012年の11月に奈良県で起きました。
男性の乗る自転車がバイクと接触事故を起こし、バイク側が負傷したにも関わらず自転車の男性(当時61歳)は現場から逃走してしまいました。
自転車は市道を急に斜めに横断しようとし後ろからきたバイクと接触、バイクの男性(当時37歳)は鎖骨を骨折する重傷を負いましたが、自転車の男性はその場から消え去ったとのこと。
その後、自転車に乗っていた男は「自転車(対バイク)だから大丈夫だと思った」と供述、事件から5ヶ月後に道路交通法違反(救護義務違反)で書類送検されました。
警察は運転免許の行政処分を下す
これだけならよくある自転車事故の話ですが、この事故捜査の結果を受けて県警運転免許課は自転車男性の保有する運転免許に対して150日の運転免許停止処分を下しました。
この報道を聞いたときは、確かに自転車男性が負傷したバイクの男性を救護せずにその場から立ち去ったことは非難されて然るべきだが、一方では自転車を運転する要件ではない「運転免許証」に対して停止処分がなされるのはちょっと違うのではないか?という気持ちもありました。
県警が運転免許の停止処分に踏み切った理由とは?
県警が今回、自転車男性の運転免許の停止処分に踏み切ったのは「自動車でも違反を犯す恐れが高い」と判断したためです。
道路交通法第103条1項で運転免許の取消し、または免許停止について規定されています。
第百三条 免許(仮免許を除く。以下第百六条までにおいて同じ。)を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、その者が当該各号のいずれかに該当することとなつた時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。ただし、第五号に該当する者が前条の規定の適用を受ける者であるときは、当該処分は、その者が同条に規定する講習を受けないで同条の期間を経過した後でなければ、することができない。
(略)
八 前各号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき。
引用:http://elaws.e-gov.go.jp/
自転車男性の供述によれば「自転車とバイクの接触事故では自転車は悪くない(関係ない)と思った、だから立ち去った」ととれます。
県警はこの点を重視して、
自転車でこのような違反を犯した人物が運転免許を所持している以上、同じような違反を犯す恐れが高いとみて処分せざるを得ない。
出典:https://www.j-cast.com/2012/11/21154917.html?p=all
として、道交法103条第1項の8を適用して免許停止処分を下しました。
つまり、自転車も自動車も「車両」であり、車両を運転する人は免許の有無を問わず道路交通法に縛られることを意味しています。
この自転車男性は、事故が起きたときにバイクが転倒したことを認識していたわけですから、自分に非があろうがなかろうが転倒・負傷した人を救護していれば、免許停止処分までには至らなかったと考えられます。
救護義務違反とはいわゆる「ひき逃げ」
救護義務違反というとなんか軽そうに思うかもしれませんが、いわゆる「ひき逃げ」のことです。
ひき逃げですから、相当重い罪が科せられる違反です。
救護義務違反の定義は道路交通法第72条に規定されています。
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
引用:http://elaws.e-gov.go.jp/
「車両等」の中には当然自転車も含まれるので、例えば自転車が歩行者と接触し、歩行者が転倒したり怪我した場合は救護する義務が生じますし、何もせずに立ち去ると救護義務違反(ひき逃げ)に問われます。
意外と多くの人が勘違いしていますが、道路交通法は運転免許を所持している人だけに適用されるのではなく、自転車を含むすべての車両に適用されるのです。
ただし今回のケースでは違反点数の加算はされない
本来、救護義務違反(ひき逃げ)とは大変重い罪で、被害者が軽傷で補償や示談がなされていれば執行猶予が付くこともありますが、被害者が後遺症を負ったりした場合は実刑も十分にあり得るものです。
しかも自動車やバイクで救護義務違反(ひき逃げ)した場合は、行政処分として違反点数35点が加算されますので、一発で免許取消、免停の前歴が無くても欠格期間3年です。
しかし、自転車は免許を受けた車両ではないので、自転車での救護義務違反では違反点数35点は加算されなかったのだろうと推測されます。(だから県警は道交法103条1項の8を適用して免停150日の行政処分を下したのでしょう)
まとめ
・自転車で悪質な違反をすると、自動車等の運転でも同じように悪質な運転をするとみなされ免停処分の対象になる可能性がある
今回取り上げた、自転車による救護義務違反は特殊な例ではなく、例えば自転車による飲酒運転の摘発でも、同様に所持免許に対して道交法103条1項の8を適用して免許停止処分を下される例が増えてきています。
未だに「自転車なんて子供も乗ってるぐらいなんだからキップ切られることはない」とか「自転車だから飲んでも大丈夫」なんて思っている人がいますが、その認識は大変甘いと言わざるを得ません。
昨今の自転車ブームによって警察も自転車に対しては交通ルールを遵守するよう、道路交通法を厳格に運用するようになってきています。
通勤時に赤信号で横断する大人の姿も自転車で右側を通行する大人の姿も、子供達はよく見ています。
自転車も「車両」である認識を持って、子供の模範となるように運用するようにしましょう。
コメント