国土交通省は15日、冬期道路交通確保対策検討委員会が大雪時の交通を確保するために、大雪警報が発令されているときはスタッドレス装着車でも滑り止めチェーンを装着しないと通行を認めないことを発表しました。
そこで国交省と警察庁は、大雪時に車両が立ち往生しやすい高速道路や幹線道路の一部区間で、スタッドレスタイヤ装着車を含む全ての車両にチェーン携行を義務付ける方針を発表しました。
規制時にチェーン未装着で通行した場合は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるというものです。
過去に立ち往生した場所や急坂などの200区間を順次指定して、年末~年度末にかけて運用していくとのこと。
また同時にパブリックコメント(意見公募)を踏まえて、来月上旬に道路法に基づく標識例を改正して冬用タイヤ(スタッドレス、オールシーズンタイヤ)使用車へのチェーン装着を求めていく方針とのことです。
昨年の大雪による各地で起きた交通麻痺に対する対策だと思われますが、雪国では「実態を知らない人間の施策」として物議を醸しています。
事の発端は昨年の大雪による交通マヒ
昨年の大雪では、北陸地方の幹線道路で車が立ち往生したことをきっかけに、1,500台以上もの車両が渋滞に巻き込まれ完全復旧に4日もかかるなど、社会問題化されたことは記憶に新しいかと思います。
東京でも首都高山手トンネル出口の4%勾配を(積雪で)登れなかった車両が道路を塞いで大渋滞となり、復旧するのに10時間以上もかかりました。
大雪による渋滞は単なる交通渋滞とは異なり、除雪車の機動自体も阻むために除雪自体も遅れることになります。
立ち往生した車両には輸送用トラックも含まれ、物流が麻痺したことから市民の社会生活にも大きな影響を及ぼしました。
近年の大雪は短時間で一気に降る
通常の大雪、と言っていいのかわかりませんが、日本海側、いわゆる豪雪地帯の人達にとっての”いつもの”大雪であれば、こうはならなかったのですが、昨年の大雪は短時間に一気に降雪が起きたゲリラ豪雨ならぬ「ゲリラ豪雪」でした。
僕の感覚では短時間に一気に降雪が起きると、いくらチェーンを装着していてもハマる(スタックする)ときはハマります。
新雪が車両の最低地上高を超えると、新品のスタッドレスを履いていようがチェーンを装着していようが走行することは厳しいです。

つまり短時間に大量の降雪があると、スタッドレスを履いていようがチェーンを装着していようがスタックしてしまうときはスタックしてしまいます。だからこんな規制は意味がない、というのが批判する人達の意見です。
規制は理解できるが…
とは言っても、チェーン携行を義務付けられれば、規制区間を日常的に通行する人にはコスト負担がかかりますが、罰則を回避するためにチェーン携行するので、スタックによる交通渋滞を抑制する効果はあるのではないかとは思います。
しかし、普段規制区間を通行しない人がたまたま大雪のときに規制区間を通行することは大いにあり得ますから、この規制は実質、雪国に住む全てのスタッドレス車にチェーン携行を義務付けるようなものです。
チェーン規制による副次的な問題
それともう一つ懸念されるのは、チェーン装着による粉塵問題です。
大雪警報が出されると、物流業者、タクシーを中心に予備的にチェーン装着することでしょう。そうなると予備的に装着したチェーンが乾燥路を削り、粉塵による健康被害が懸念されます。
そもそも、スパイクタイヤによる粉塵公害が社会的に問題となり、それを解決するためにスタッドレスタイヤが開発されたのに、社会生活を支障を与えないためとは言え、環境保護に逆行するようなチェーン規制はちょっと疑問ですよね。
少なくともチェーン規制によって今以上に道路が痛むことは避けられませんし、それによって発生する道路補修費用といった副次的なコスト負担も懸念される点の一つです。
道路交通規則の罰則が活きていない
大雪時に都内で起きた混乱は、あらかじめ降雪が予想されていたにも関わらずサマータイヤのまま運転している車両が道を塞いでしまったケースがほとんどでした。
そもそもこんなことは論外で、本来は道路交通法できちんと処罰すべきなのです。
<東京都道路交通規則 第8条第6号>
積雪又は凍結により明らかにすべると認められる状態にある道路において、自動車又は原動機付き自転車を運転するときは、タイヤチェーンを取付ける等して滑り止めの措置を講ずること。
東京都道路交通規則 第8条は、道路交通法71条6号の委任を受けて東京都公安委員会が定めており、罰則は同違反に対する罰則なので、道路交通法(罰則)第120条1項9号によって規定されています。
第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五万円以下の罰金に処する。
(略)
九 第七十一条(運転者の遵守事項)第一号、第四号から第五号まで、第五号の三、第五号の四若しくは第六号、第七十一条の二(自動車等の運転者の遵守事項)、第七十三条(妨害の禁止)、第七十六条(禁止行為)第四項又は第九十五条(免許証の携帯及び提示義務)第二項(第百七条の三(国際運転免許証等の携帯及び提示義務)後段において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
しかし大雪の日にサマータイヤでスタックしている人のほとんどは、消防や警察官の手助けでスタックを脱出するか、車を乗り捨てて避難しており、反則キップを切られたという話を聞いたことがありません。
確かに大雪の日は事故が多いので、そんなときに道路交通規則違反で反則キップを切ることは実務上難しいのかもしれませんが、罰則が機能していないがために、大雪予報なのにサマータイヤで出かけてしまう人が一向に減らないのではないでしょうか?
個人的には、大雪時にスタッドレスタイヤやチェーン携行していない車両がスタックしていた場合は、警察官が現認の上、後日反則通告できるような仕組みを講じるべきだと思います。
大雪でスタックしそうな場所はあらかじめ除雪対策を講じればいいのでは?
確かに雪国の人にしてみれば、事実上のチェーン携行が義務付けられるような規制なので、文句を言いたくなる気持ちもよくわかります。
しかし一方で、大雪の時にスタックしそうな箇所があらかじめわかっているのであれば、重点除雪ポイントに指定したり、融雪設備を設けるなどすれば、大雪時のスタックをかなり防げるのではないでしょうか?
また大雪警報が出るときは、台風の対応と同じように会社を休みにしたり不要不急の外出を控えるなど、交通量を減らして交通マヒのインパクトを抑えるような対応を社会全体で行う必要があると思います。
いくら万が一に備えてチェーン携行したとしても、想定外の大雪に見舞われる可能性はゼロにはなりませんし、自分以外の車両がスタックして巻き込まれることも考えられるでしょう。
そういったときのためにも、冬期間に積雪地域に出かけるときは、チェーンの他に毛布なども携行したほうがより安心です。

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