運転中に携帯電話やスマホで通話することが違法なことは誰でも知っていると思いますが、一方、運転中にBluetoothイヤホンなどで通話すること自体も「違反」としているサイトが散見されます。一体、どちらが本当なのでしょうか?
今回は人によって見解が分かれる運転中のハンズフリー通話を取り上げたいと思います。
道路交通法による制限
まず、運転中の携帯電話の使用は道路交通法第71条(運転者の尊守事項)の5項の5で制限されています。
elaws.e-gov.co.jpから引用します。
五の五 自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第百二十条第一項第十一号において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第十六号若しくは第十七号又は第四十四条第十一号に規定する装置であるものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)に表示された画像を注視しないこと。
法律の条文は引用や括弧による説明が多くて読みづらいですよね。
内容に影響が無い範囲で括弧を省いてみました。
五の五 自動車又は原動機付自転車を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。)を通話のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと。
要約すると
・運転中に通話していなくても手で保持して使うのはNG
・画面を注視するのはNG
です。
つまりこの条文からは、携帯やスマホを手に持たずハンズフリーで通話するのは違反ではないと読めますね。
ただ、条文を読む限りは「自動車等が停止しているとき」は携帯・スマホを操作しても違反ではありませんね。
都道府県条例による制限
しかし巷で「運転中のハンズフリー通話は違法」という根拠に、都道府県条例による制約が挙げられています。
東京都の場合は、東京都道路交通規則という東京都公安委員会が定めた規則があり、その中で自動車運転中の携帯、スマホ操作についての規則があります。
(運転者の遵守事項)
第8条 法第71条第6号の規定により、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)の運転者が遵守しなければならない事項は、次に掲げるとおりとする。
(中略)
(5) 高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。ただし、難聴者が補聴器を使用する場合又は公共目的を遂行する者が当該目的のための指令を受信する場合にイヤホーン等を使用するときは、この限りでない。
引用:http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/g1012199001.html
運転中のハンズフリー通話はダメ!と言ってる人は、Bluetoothトランシーバを使うことがこの条文の中の「安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと」という部分に該当すると解釈しているのだと思います。
しかし「安全な運転に必要な交通に関する音または声」、すなわち踏切の警報音、他車の警笛音、緊急自動車のサイレン、警察官の指示・警告が認識できる状態であれば問題無いわけで、片耳にBluetoothレシーバー、もう片耳はフリーにしてあれば運転中に通話しても「運転者の遵守事項」に違反するものではありません。
もちろん、両耳を塞ぐイヤホンを使った通話は「安全な運転に必要な交通に関する音または声が聞こえない状態」に該当する可能性があるので避けるべきでしょう。
解釈のポイント
「Bluetoothイヤホンを使ったハンズフリー通話は違反」と言ってるサイトでは「都道府県条例によってイヤホンの使用が禁止されているから」ということを違反の根拠にしていますが、条文をよく読めば、イヤホンの使用を一律に禁止しているわけではないことがわかります。
例えば宮城県の場合「宮城県道路交通規則」という宮城県公安委員会が制定した規則があります。
(運転者の遵守事項)
第14条 法第71条第6号の規定により、車両の運転者は、車両を運転するときは、次の各号に掲げる事項を守らなければならない。
(中略)
(11) 高音量でカーラジオ、カーステレオ等を聞き、ヘッドホン又はイヤホンを使用して音楽を聞くなど、安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転しないこと。ただし、公共目的を遂行するものが当該目的のための指令を受信する場合にヘッドホン又はイヤホンを使用するときは、この限りではない。
引用:http://www.police.pref.miyagi.jp/hp/kikaku/hou/kisoku.pdf
微妙な文言の違いはありますが、内容は東京都とほとんど同じです。
東京都:「安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえない状態」
他の都道府県の道路交通規則も似たような文言で規制されているので、イヤホンやヘッドホンなどで両耳を塞ぐようなものはNG、片耳につけるBluetoothトランシーバであればOKと解釈するのが妥当だと思います。
それでも僕が運転中のハンズフリー通話をオススメしない理由とは
法律論で言えば運転中のBluetoothトランシーバによるハンズフリー通話は違法ではありませんが、個人的には運転中の通話はあまりオススメしません。
これは僕の経験からなんですが、40半ばを過ぎたぐらいから運転しながら同乗者と会話していると、曲がるべき交差点を忘れて直進してしまったりすることが多くなってきました。
何気ない会話であればそんなことはありませんが、少し考え込むような会話だと思考が会話に集中してしまい、運転の集中が奪われてしまうんです。
これは、脳のワーキングメモリを保持する能力が加齢によって低下するため、だんだんとマルチタスク処理(同時に仕事をこなすこと)が苦手になってくるのです。若いときに比べて年齢を重ねた脳は、中断した処理に戻る時間がより多くかかってしまうことが米国の研究で明らかになっています。
20代の頃は、客先に行くときに携帯電話で通話しながらさらにオニギリ食べながら運転する、なんて平気でやっていましたが、今ではとても出来る気がしません。(当時はまだ法規制される前でした)
もちろん、車を運転して毎日のようにBluetoothイヤホンで通話している人であれば、その能力はキープ出来ているかもしれません。しかし僕のように週末ぐらいしか運転しない人は、運転中のマルチタスク能力は若いときに比べて確実に低下しています。
「そんなことねーよ、俺はまだまだ大丈夫だよ」って思いたい気持ちもわかります。僕もまだ50代手前ですからそう思う気持ちもどこかにあります。
でも一方で、自分の認知力やワーキングメモリの低下を意地で認めないことは、高齢者が免許を返納しないこととそう変わらないことだと思うんですね。人は自身の老いをなかなか認められないものです。
曲がるべき道を間違えて直進してしまったぐらいならまだ笑い話で済みますが、会話に夢中になって自転車に気づかなかったり、万が一歩行者を跳ねてしまったら…と考えると背筋が凍りませんか?
僕が運転中にハンズフリー通話の使用をオススメしないのはこういった理由からなんです。
まとめ
・運転中に携帯・スマホを持って画面を見るのはNG
・運転中、携帯・スマホの画面を注視するのはNG
・bluetoothトランシーバでハンズフリー通話はOK
・イヤホンで両耳塞ぐと周囲の音が聞こえないので違反とされる可能性がある
ということで、Bluetoothトランシーバを片耳に掛けて使う分には運転中でも問題ありません。
「俺はそれでも切符を切られた」という方がいるかもしれませんが、交通取締りは現場警察官によってバラツキがありますので、中には片耳につけているだけなのに「それでは周囲の音が聞こえない」と強引に違反切符を切る警察官がいるかもしれません。
その場合は上で紹介した道路交通法71条とお住いの都道府県の道路交通規則を照らし合わせて違法ではないことをしっかりと主張しましょう。
今回の件を調べてみたときに改めて気づいたのですが、街中でたまに見かけるカーオーディオのボリュームがものすごく大きい車は、「安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえない状態」なのでそれ自体が違反なんですね。
気をつけましょう。
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